アルムナイ採用とは?知っておきたい知識マニュアル

アルムナイ採用とは?辞めた会社が、未来の仕事先になる時代
近年、「アルムナイ採用」という言葉を耳にする機会が増えています。一度会社を離れた人が、再び同じ会社で働いたり、副業やアルバイト・パートなどの形で関わるケースです。今、こうした関係を前向きに捉え、再びつながろうとする企業が増えています。

かつては「会社を辞めれば縁が切れる」と考えるのが普通でしたが、今は企業と働く個人の価値観が変化してきています。「一度離れても、将来また何か一緒にできるかもしれない」、そんな関係を企業も個人も大切にする時代になりつつあります。

アルムナイ採用とは、再び関われる関係を仕組みとして整えたものです。企業にとっては信頼できる経験者(元従業員)を再び迎える方法であり、働く個人にとってはもう一度関われる安心感を残しておく選択肢でもあります。

このページでは、アルムナイ採用の意味や背景、今後の展望、そして働く側のメリットやデメリット、注意点なども詳しくお伝えしていきます。

アルムナイ採用とは?

「アルムナイ(Alumni)」とは、本来ラテン語で「卒業生」を意味する言葉です。海外では大学やスクールの卒業生ネットワークを指す言葉として長く使われてきました。

卒業後も母校とのつながりを大切にし、互いに情報交換をしたり、支援し合ったりする関係を「アルムナイコミュニティ」と呼んでいます。

この概念がビジネスの世界にも広がり、「会社を卒業した人=元従業員」を指して使われるようになりました。つまり「企業版の卒業生ネットワーク」です。

日本でも近年、アルムナイという言葉を使う企業が増え、退職者(元従業員)を対象にしたコミュニティの運営や、再雇用制度を整えてPRするような動きが加速しています。

背景には「一度辞めてしまっても、その人の持つ経験やスキル、過去の関係性は企業にとっての財産である」という考え方の広がりがあります。

アルムナイは単なる昔の従業員ではなく、新しい形で再び関われる仲間として位置づけられるようになってきているのです。

カムバック採用やジョブリターン制度など、呼び方の違いも

企業によっては「アルムナイ採用」という言葉を使わず、「カムバック採用」「ジョブリターン制度」「再雇用制度」など、独自の呼び方をしている場合があります。いずれも共通するのは、一度会社を離れた人が何らかの形で再び関わる仕組みである点です。

「カムバック採用」は元従業員を対象に、再入社を想定した経験者採用制度の1つとして紹介されていることが多いです。

「ジョブリターン制度」も同様ですが、こちらは結婚、育児、介護、転職などの理由で、一度退職した人が再び戻りやすい仕組み、制度を指している場合が多いです。

近年は正社員としての復帰(再入社)だけでなく、副業、業務委託、アルバイト・パートなど、関わり方の選択肢も多様になってきています。

例えば「別の会社で得た経験を、今ならもっと活かせる」「育児や介護が落ち着いたので、自分のペースでまた関わりたい」と考える人も増えています。

さらに、フリーランスという立場から昔の勤務先の業務に関わるなど、以前よりは関わり方も柔軟になってきています。

こうした動きの背景には、「辞めた会社ともう一度関わること」をポジティブに捉える人が増えていることがあります。

過去の会社、職場へ戻るという選択がキャリアの後退ではなく、「積んできた経験やスキルを活かす新しい形」として受け入れられ始めているのです。

いわゆる「出戻り」に対する再評価とイメージの変化

昔は同じ会社へ再び戻ることを「出戻り」と呼び、どこかネガティブな印象を持たれることもありました。「辞めたのにまた戻るの?」「キャリアダウンに見えそう」といった空気感が、企業の中にも働く個人の中にもあった時代です。

しかし、近年は人材の流動化が進み、転職することが何も珍しくない時代になり、「辞める=裏切り」ではなく、「新しい経験を積むステップ」として受け止められるようになっています。

企業側も、一度退職してしまった人が外の世界で得た経験やスキルを持ち帰ってくれることは、「社内外を経験した再成長人材」として、前向きに捉える意識が高まってきています。

実際、「自社のことをよく理解している人ほど、再入社後の活躍スピードが早い」という企業担当者の声も多くあり、未経験者より教育コストが少なく、社風や業務への適応もスムーズだと言われています。

働く個人にとっても、戻るという考えが昔ほど特別、異例なことではなくなり、キャリアの選択肢の一部として自然に選べる時代になってきているということでもあります。

企業がアルムナイ採用に力を入れ始めた背景は?

企業がアルムナイ採用に力を入れ始めているのは、単に元従業員との関係性を見直すためだけではありません。その背景には採用市場の厳しさという現実的な理由もあります。

近年は即戦力としての活躍が期待できる人材の採用競争が激化し、求人広告を出稿しても手応えのある応募は集まりにくくなってきています。

また、転職エージェント経由での中途採用も多くなり、紹介手数料(転職者決定年収額の35%)の負担が企業側に重くのしかかってきています。

アルバイト採用の場合も、従来から出稿している求人広告の掲載費負担に加え、スポットワークアプリのマッチング手数料(ワーカー報酬額の30%)も増え、新たな課題となっています。

こうした厳しい環境の中で、自社のカルチャーや業務をよく知る経験者(元従業員)を再び迎えることは、採用活動の手間やリスク、コストを含むすべてを抑えられる合理的な手段になっています。

こういった背景を経て、企業はアルムナイ採用を強化するとともに、「辞めた後も応援したくなる会社」「いつか戻っても良い会社」というブランディングを意識することも大切になってきています。

いつ頃からアルムナイ採用が広がり始めたの?

アルムナイ採用の考え方はアクセンチュアやマッキンゼーなど、海外のコンサルティング会社が先行して取り組んだことから広がり始めました。

コンサルティング会社では、クライアントのプロジェクトに応じて人材が入れ替わるのが普通であり、退職してしまった人材を将来のビジネスパートナーとして考えるという発想が早くから根づいていたのです。

アクセンチュアが設立した「Accenture Alumni Network」では、キャリア情報やイベント情報、再雇用の機会などを共有する仕組みが整備されていて、この動きが他の企業にも波及していきました。

日本では2015年前後から、一部の企業でアルムナイ採用の取り組みが始まり、2020年に発生したコロナ禍をきっかけに、「アルムナイ採用」という言葉が一気に広がっていきました。

実際、Googleトレンドで「アルムナイ採用」というキーワードを検索してみると、2022年頃から急激に検索数が増加しています。今は大手・中堅企業だけでなく、中小企業にも認識が広がり始めている状況です。

働く側にとって、アルムナイ採用のメリットは?

アルムナイ採用の広がりは、働く側にも安心感と新たな選択肢をもたらしています。例えばキャリアアップを意識して転職したものの、思っていた環境と違い、「転職に失敗した」と感じる人も少なくありません。

また、結婚・育児・介護・転勤など、ライフステージの変化に合わせて、一旦働き方を見直すというケースも増えています。そんな時に「もう一度、あの会社、あの職場で働けたら」と思い出す人もいるでしょう。

実際、過去の勤務先と再び接点を持ち、リターンする人の多くは、過去の職場の良好な人間関係や働きやすさ、福利厚生や休日休暇の充実を理由に挙げていることが多いです。

「ストレスが少なく、気持ちよく働けていた職場」「制度面が整っていた(または当時は不満だったが改善された)」という安心感が、再び関わる、戻るという判断の後押しにもなっているのです。

さらに他社の環境を経験したことでスキルや視野が広がり、「今ならもっと自分の力を発揮できる」と考えてリターンを選ぶケースもあります。

今ならかつての職場により大きな貢献ができる、自分にとってもそれが新しいチャンスになると考え、成長した自分を活かすための道として選ぶケースです。

これまでは「新たな転職先を探すか?現職にとどまるか?」、この2択で考えるのが普通でした。しかし、アルムナイ採用の普及で「リターンする」という第3の選択肢が現実的に選べるようになってきています。

選考のプロセスが、通常より簡略化されるメリットも

アルムナイ採用の場合、応募後の選考プロセスで実利的なメリットが得られることもあります。例えば応募する企業によっては、筆記試験や適性検査が免除されたり、通常よりも面接を受ける回数が少なくて済むようなケースがあります。

地方自治体の大分県庁の場合、2024年度からアルムナイ採用枠を新設し、元職員であれば筆記試験を免除し、面接のみとする方針を打ち出しています(2025年10月時点)。

今後は通常の中途採用の選考プロセスとは別に、アルムナイ専用の簡略化された選考プロセスを新設する企業がどんどん増えていくでしょう。

働く側が知っておくべき、アルムナイ採用のデメリットは?

アルムナイ採用は安心感や新たな選択肢をもたらす一方、働く側が注意しておきたい点もあります。過去の企業や職場へ復帰する際、当時と同じ環境とは限らない現実があるためです。

まずは、職場の雰囲気や人間関係の変化です。当時一緒に働いていた上司や同僚が異動・退職していて、昔と同じ仲間で働けると思っていたのに、雰囲気が変わっていたというケースがあるかもしれません。その場合は人間関係を築き直す時間が必要になってきます。

次に給与やポジションなど待遇条件の変化です。改めて再入社する場合、当時と必ず同じポジション、待遇で復帰できるとは限りません。現在の方針や組織体制、業務内容に応じて、役職や給与水準が再設定されるのが普通だからです。

ただし、これはマイナスの要素とも限りません。他の会社で積んだ経験やスキルをもとに、新たな役職、業務内容にアサインされるケースもあるためです。いずれにしても、双方にとって最適な形を改めて擦り合わせるというプロセスが出てくるでしょう。

もう1点、戻ってきた人として見られることにプレッシャーを感じるタイプの方もいるかもしれません。周囲から即戦力として見られてしまう、期待されてしまうことに対し、心理的な負担を感じるケースです。

この点に懸念や不安を感じてしまう方は、復帰の判断を行う前に、可能な範囲で上司となる方へ本音を話しておき、お互いの期待値を擦り合わせておくことが重要になるでしょう。

このようなデメリットを避けるためには、かつての懐かしい会社、職場の延長という感覚ではなく、改めて新しい関わり方を考える、決めると捉える方が納得感のあるリターンにつながりやすくなります。

アルムナイなら誰でも採用されるの?NGのケースはあるの?

アルムナイ採用(リターン採用)は元社員、元従業員なら、誰でも無条件に戻れるという仕組みではありません。企業と個人の双方が、もう一度一緒に働きたいと思えることが前提になります。

そのため、退職した時の経緯や社内ルールによっては、再び関わるのが難しいケースもあります。ここではが実際に難しくなりやすいケースをご紹介していきたいと思います。

まず、懲戒処分、企業の規範や法律に関わるトラブルを起こして退職した場合、企業によっては人事上の記録として残っているケースもあるため、企業側も再入社、再雇用に慎重にならざるを得ません。

次に、再就職支援の対象や、会社の経営判断で退職に至ったケースです。会社としては一度、雇用関係を整理した認識でいますので、採用につながる可能性は低くなりがちです。ただし、希望退職のような形で退職している場合、企業によってはアルムナイとして再び声がかかるケースもあります。

次は、信頼関係を損ねて退職しているケースです。例えば退職代行業者を利用し、会社側と直接連絡を取らずに終わってしまった場合などがこれに当たります。企業側も本当にまた一緒に働けるだろうか?と疑問や不安を感じてしまいます。

次は、求められる経験やスキルなどを総合的に勘案し、現在は過去の経験が活かしにくい、マッチしないと判断されるケースです。特に正社員としての復帰を望む場合はこの点が重要になりますが、業務委託やアルバイト・パートとしての復帰を望む場合は、職場側の判断によっては戻れる場合もあったりします。

最後は、制度上の区切りに年齢が関係してくるケースです。多くの企業は定年後の再雇用制度と整合させる形で、正社員としての雇用はおおむね65歳までとしている場合が多いです。

そのため、65歳を超えて正社員として戻るのは難しくなる一方、企業によっては再雇用の業務委託、またはアルバイト・パートとしてお手伝い頂く形はどうか?と提案を受ける場合はあります。

副業、アルバイト・パートとして復帰する際の注意点は?

アルムナイ採用では、かつて正社員として働いていた人が、副業やアルバイト・パートという形での仕事を希望し、再び関わるケースも増えています。

生活や他の仕事とのバランスを取りながら、慣れた環境で働ける点は魅力ですが、知っている職場だからこそ意識しておきたい点、期待される役割もあります。

まずは、過去の延長で今を見ないことです。組織やメンバー構成、業務の進め方は時間とともに変化しています。かつての同僚や後輩が今では上司やリーダーになっている場合もあるため、当時の関係性をそのまま持ち込むと誤解やすれ違いが生じやすくなります。

一方で、アルムナイだからこそ発揮できる強みもあります。職場のカルチャーや業務内容を理解しているため、早く現場へ溶け込み、周囲の負担を軽減できる存在として活躍できます。また、場の雰囲気や空気感を察知して行動できる点もチームに安心感を与えるでしょう。

アルバイト・パートとして復帰する場合は、当時とは担当範囲や裁量が全く異なるため、どこまでの業務に関わるか、新たな雇用形態での役割分担、業務内容を明確化しておくのがスムーズです。社内をよく知る存在だからこそ、先を見通した仕事の仕方ができる可能性は高いです。

副業として関わる場合は、外部パートナーでありながら、社内の事情を理解できる希少な存在として活躍できる可能性があります。

会社のリソース状況や内部フローも把握しているため、現実的な提案や柔軟な進め方ができ、他の外部人材にはない調整力を発揮できる場面も多くあります。

アルムナイとして再び関わることは、単なる復帰ではなく、過去の理解を今の組織の力に変えることです。それが企業とアルムナイ、双方にとって新しい価値を生み出すことにつながっていきます。

アルムナイ採用の普及と今後の展望

今、アルムナイ採用に注目する企業が一気に増えています。「会社を辞めた人とつながり続ける」という考え方が知られるようになり、アルムナイ採用に特化した採用管理のクラウドサービスを導入する企業も急増しています。

市場のデータを見るとその勢いは明らかです。アルムナイ関連サービスの市場はわずか2年で約2.7倍に成長していて、今後も年間平均58%以上のペースで拡大していくとが予想されています。

政府も人的資本経営や雇用の流動化を後押ししており、アルムナイ採用はこうした流れに沿って、企業が自らの人的資本を循環させていく取り組みとしても注目されています。

これからの数年で、アルムナイ採用は多くの企業にとって、普通の採用手法になっていく可能性が高いです。また、今後は採用だけにとどまらず、アルムナイとの共同プロジェクト、アルムナイを企業のアンバサダーとして捉えていく試みも始まりつつあります。

記事作成者
Alum Park編集部

Alum Park(アルムパーク)は、今後拡大が予想されている企業のアルムナイ採用(リターン転職)に関する実情や最新動向を、働く側の視点に立ってわかりやすく伝えていくために運営している専門サイトです。

変化し続ける人材ビジネスの世界で培った知見や実務経験をもとに、中立的な立場から詳しく解説しています。記事内容は独自の調査結果や公的資料、各企業の公開情報など、できるだけ信頼性の高い情報をもとに作成・公開しています。

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