しかし、近年は企業のアルムナイ採用の強化、個人の転職に対する意識の変化、働き方の多様化などが浸透しつつあり、一度離れた企業、職場へ戻って働くという選択も昔よりは違和感がなくなりつつあります。
ただし、リターンできる制度や仕組みが広まりつつある一方、個人の心の中の抵抗感が一定残っている層がいるのもまた事実です。そこで今回は、出戻りは恥ずかしいという感情の傾向、心理を把握、掘り下げることを目的にした意識調査を実施いたしました。
意識調査概要
調査タイトル:過去の勤務先企業へ出戻って働くのは恥ずかしいこと?意識調査
実施方法:オンラインリサーチを活用したWEBアンケート調査
実施時期:2025年10月
回答者数:120名(全国/男女/幅広い年齢層で構成)
設問形式:リッカート尺度(4段階)+コメント(自由記述形式)
全体傾向:出戻りに対する意識分布
今回の調査ではまず、「出戻り」に対する感じ方をより立体的に把握するために、「友人・知人の出戻り」「家族・配偶者の出戻り」「自分自身の出戻り」という3つの距離感で設問を行いました。
これは、他人ごとから自分ごとへ変化する段階で、恥ずかしさの感じ方に差が出るのだろうか?という点を確認しておくためです。その結果、出戻りに対する印象は以下のように分かれました。
他人の出戻りには寛容な傾向

友人・知人の出戻りについては、「全く恥ずかしくないことだと思う」「そんなに恥ずかしくないことだと思う」と答えた人の合計が76.6%、「少し恥ずかしいことだと思う」「かなり恥ずかしいことだと思う」と答えた人の合計が23.3%でした。

また、家族・配偶者の知人の出戻りについては、「全く恥ずかしくないことだと思う」「そんなに恥ずかしくないことだと思う」と答えた人の合計が80.0%、「少し恥ずかしいことだと思う」「かなり恥ずかしいことだと思う」と答えた人の合計が20.0%でした。
この結果から、自分以外の他人の出戻りについては、概ね寛容な意識を持っていることがうかがえます。
回答者のコメント(自由記述)でも、「他社で得た経験を活かせるなら良いこと」「家庭の事情などがあれば自然」といった内容が多く、出戻ることに対するネガティブな感情は限定的でした。
自分自身が出戻る場合は恥ずかしさが増す傾向

一方、自分自身の出戻りについては、「全く恥ずかしくないことだと思う」「そんなに恥ずかしくないことだと思う」と答えた人の合計が56.7%、「少し恥ずかしいことだと思う」「かなり恥ずかしいことだと思う」と答えた人の合計が43.3%で、自分自身のことになるとより厳しく、慎重になる傾向が見て取れます。
回答者のコメント(自由記述)でも、「辞めた手前、戻りづらい」「周囲にどう思われるかが気になる」など、他人の目線や自分のプライドに関する言及が多数を占めました。一方、「環境が変わっていれば戻るのもアリ」「再挑戦と考えれば前向き」といった声もあり、ためらいと合理性の間で揺れる心理も見られます。
この傾向から出戻りに対する恥ずかしさは、出戻る行為そのものが問題ではなく、「他人からどう見られるか?」「自分自身で納得できそうか?」という心理的な整合感を気にする傾向が強いと言えそうです。
出戻りを肯定的に捉えている人の特徴
出戻りを「全く恥ずかしくないことだと思う」「そんなに恥ずかしくないことだと思う」と答えた人の合計は71.1%(平均値)でしたが、回答者のコメント(自由記述)をグルーピングして整理すると、以下のような傾向が見られました。
肯定派(グルーピング)
経験の再活用型:
「他社で得た知見を再び活かせる」「以前より成長して戻れる」
環境・人間関係重視型:
「職場の人間関係が良ければ問題ない」
再挑戦・再スタート型:
「再度挑戦したい気持ちがあれば前向きだと思う」
状況適応型:
「会社や上司が変わったなら自然な選択」
代表的なコメント例(抜粋)
「他社での経験を持ち帰るのは良いこと」
「環境や上司が変わっていれば、戻るのも自然」
「人間関係が良いなら恥ずかしくない」
肯定派の多くは、再挑戦や経験の循環をポジティブに捉え、「出戻り=恥ずかしい」というよりは、「状況が合えば合理的」という姿勢が目立ちました。
条件付き肯定派(グルーピング)
「恥ずかしくはないが、条件次第」という回答も見られ、この層の共通点は、「会社を辞めた時の理由」と「戻る時の環境変化」に注目している点が顕著でした。
条件付き肯定派の主な判断軸
退職理由の解消:
「辞めた理由が解決されていれば恥ずかしくない」
上司・体制の変化:
「当時の人間関係が変わっていれば戻れる」
環境・待遇の改善:
「条件が良くなっていれば戻るのも自然」
代表的なコメント例
「辞めた理由が解消されていれば恥ずかしくない」
「上司が変わっていれば戻るのもあり」
「退職理由にもよるが、環境が良くなれば問題ない」
この層に共通するのは、当時の辞め方が戻り方の判断に直結している点です。恥ずかしいかどうかは、その経緯をどう整理できるか?にかかっているようです。
出戻りを否定的に捉えている人の特徴
今回、出戻りを「少し恥ずかしいことだと思う」「かなり恥ずかしいことだと思う」と答えた人の合計は28.9(平均値)でしたが、否定的な回答の多くは社会的評価の体裁や筋の通り方、自分自身のプライドに重きを置くコメントが多かったです。
否定派(グルーピング)
評価・体裁懸念型:
「周囲に失敗して戻ったと思われそう」「周りにどう思われるかが気になる」など、出戻りそのものよりも、他者からの見られ方に敏感で、社会的評価を気にするタイプ
キャリア後退懸念型:
「戻るのはキャリアの後退に感じる」「成長が止まるように思う」など、出戻りを前進の停止と捉え、直線的なキャリア観を持つタイプ
筋・一貫性重視型:
「辞めた以上、戻るのは筋が通らない」「けじめをつけたのに戻るのは違う」など、辞めたという過去の判断を覆すことへの抵抗感が強く、行動の整合性を重視するタイプ
代表的なコメント例
「辞めた時点でけじめをつけたのだから戻るのは違う」
「周りから結局戻ったのかと思われるのが嫌」
分析結果から見えるのは、否定派の恥ずかしさは単なる羞恥ではなく、自分の一貫性を守りたいという心理を感じさせる点です。この層は「キャリアは前進するもの」「後戻りは評価を下げる」という直線的な価値観を感じさせ、いわばプライド重視の心理とも言えるかもしれません。
年代別の否定傾向の違い
回答者の年代によっても、否定的なコメントの傾向に若干の違いが見られました。
現役層(20代〜50代)の傾向
20代~50代の現役層の場合は、「周囲にどう思われるか?」「前の上司や同僚に顔向けできるか?」といった、対人意識が否定内容に強く影響する傾向が見られました。
現役外層(60代以上)の傾向
60代以上の現役外層の場合は、自分自身が出戻ることに抵抗感は持たない一方、他人の出戻りについては少し恥ずかしい、かなり恥ずかしいという回答が一定数見られ、自分のことは気にしないが、他人には一定の筋を求めるような傾向が見られました。
回答者のコメントから見えてくる感情の構造
回答者のコメント(自由記述)の中で多く見られたキーワードをもとに、感情の傾向を3つに分類、整理しました。
肯定的群 :
「再挑戦」「経験」「自然」「前向き」→出戻りを成長や再評価の機会と見る層
条件付き群:
「退職理由」「環境」「上司」「変化」→状況を踏まえて柔軟に判断する層
否定的群:
「筋」「逃げ」「プライド」「未練」→一貫性、体裁を重視する層
条件付き群、否定的群のコメントの中には「退職理由にもよる」というフレーズが一定数登場していて、恥ずかしさを感じるかどうかの大きな要因になっていました。
また、肯定派、条件付き肯定派ともに、「経験」「環境」「人間関係」といった現実的、合理的な要素を重要視していて、感情的な羞恥に関するコメントは限定的な傾向でした。
意識構造の整理
調査全体を俯瞰してみると、個人の出戻りに対する現状の心理構造は以下のように整理できそうです。
①他人には寛容、自分には慎重
他人の出戻りを自然に受け止める一方、自分のこととなると葛藤が生じやすい
②恥ずかしさの有無は「理由の納得感」に左右される
会社を辞めた当時の経緯に納得できていれば、戻ること自体は問題と感じにくい
③現役層と現役外層では意識の方向が異なる
現役層は他人からどう見られるか?現役外層はどうあるべきか?を基準に判断する傾向
④「出戻り=恥ずかしい」は単純ではない
否定派は一定数存在しており、その理由や背景は多様。一枚岩の意識ではなく、複数の価値観が併存している段階にある
恥ずかしさ意識の構造分析
回答者のコメント(自由記述)分析から見えてきたのは、「恥ずかしさ」の多くが社会全体ではなく、職場内の人間関係に根ざしている点です。「当時の上司にどう思われるか」「辞めた当時の同僚と顔を合わせづらい」といった声が多くあり、評価の主語は世間でなく、職場内コミュニティに集中していました。
再び戻る、リターンすることを考える際は、組織そのものよりも「中の人」、特に当時の上司や同僚との関係性の修復や再定義が必要になるため、その心理的ハードルの高さ、低さが恥ずかしさの感覚として表出していると考えられます。
一方で、上司や同僚の顔ぶれが変わっている場合、「もうあの当時の状況ではない」「気持ちを切り替えられる」と感じ、恥ずかしさの感情が低減するようなコメント傾向も見られました。
つまり、出戻りにおける恥ずかしさは固定的な感情でなく、人間関係の更新や環境の変化によって緩和される、可変的な感情であるとも言えそうです。
検索ニーズと意識調査結果の整合性
検索エンジンの検索動向の中には、「出戻り×恥ずかしい」「出戻り×社員×恥ずかしい」「出戻り×バイト×恥ずかしい」といったような検索ニーズが一定数存在しています。こういった検索の背景には今回の調査結果でも見られた、自分ごとになると恥ずかしさを感じる心理が深く関係していると考えられます。
今回の回答者のコメント(自由記述)でも、「退職理由にもよる」「状況が変わっていれば自然」という表現が多く見られました。これらの言葉は、他人の評価ではなく、自分の中での納得感を基準にしている点で共通しているとも言えます。
そのため、「出戻り×恥ずかしい」という検索自体が、自分自身の選択をどう位置づけるか、自ら確認する行為になっているとも言えそうです。言い換えれば、他人の意見、考えを調べているように見えて、実は自分自身の心の内を確かめるための行為とも言えるかもしれません。
検索という行為を通じて、「自分と同じように迷っている人がいそうか?(共感を確認したい)」「戻るのが恥ずかしくない理由を知りたい(自分の判断を肯定したい)」「実際に戻っている人はどう思われたのか?(他者の反応を事前に把握しておきたい)」といったプロセスの確認を行っているのかもしれません。
アルムナイ採用を実施している企業側が検討すべきポイント
今回の意識調査では、自分自身が出戻ることを肯定的に捉えている人は56.7%でした。また、自分自身の出戻りを否定的に捉えている人も43.3%存在しているため、完全に受け入れられている状況とは言えない面があります。
この構造は、アルムナイ採用やリターン転職が広がる中で、企業が今後どのように働く側の心理的ハードルを軽減していくか?という課題にも関わってきます。
例えば:
- リターンする人材を再評価人材として前向きに紹介する文化を醸成する
- 過去と現在の組織体制、職場コミュニティの違いを丁寧に説明していく
- 離職や復職を循環的キャリアという位置付け、意識で扱っていく
こういった積み重ねによって、否定的な印象が徐々に低減していく可能性はありそうです。一方で、企業側が感情面への配慮を怠ると、せっかくの制度や仕組みが利用しづらいままになってしまう恐れもあり、「制度の整備」と「個人の感情ケア」をセットで考えていく必要があることが見えてきます。
意識調査結果まとめ
- 出戻りを「全く恥ずかしくないと思う」「そんなに恥ずかしくないと思う」と回答した肯定派は71.1%
- 「少し恥ずかしいことだと思う」「かなり恥ずかしいことだと思う」と回答した否定派は28.9%
- 友人・家族が出戻る場合については、約8割が肯定的であり寛容的な傾向
- 一方で、自分自身の出戻りについては慎重になり、肯定派が56.7%
- 自分自身の出戻りの否定派は43.3%
- 否定派の恥ずかしさの背景には、「他人の目」と「自分自身の納得感」という心理が大きく影響
- 否定派の一部(特に現役外層)は、「筋」「プライド」「逃げ」といったキーワードを挙げる傾向も
過去の勤務先企業、職場への出戻り、リターンという行動に対する意識はまだ過渡期にあります。今後、企業がこの心理的な壁を理解し、前向きに関われる環境作りを丁寧に進めていくことで、個人にとっても企業にとっても自然な再接続の形が進んでいくのかもしれません。


