近年、企業側もアルムナイ採用(カムバック採用、ジョブリターン制度)に力を入れ始めていますが、実際に転職エージェントがどこまで対応をしてくれるのか?その実情についてはあまり知られていません。
今回は過去の勤務先企業に戻って働きたいと考え、転職エージェントに相談する場合の実情と、活動の進め方について具体的に解説していきます。
そもそも、出戻り(リターン)の転職相談はできるの?
先に結論を言えば、過去に勤務していた企業への出戻り(リターン)という選択肢も含め、転職エージェントに相談してみることは可能です。
ただし、実際にその企業の採用選考へ進めるかどうか、最終的にリターン転職が実現できるかどうかは、転職エージェントの考え方、企業の考え方によってもかなり変わってきます。
相談自体は可能、ただし転職エージェントと企業の方針次第
相談自体は可能なのですが、転職エージェント側と企業側の方針によって、相談できる範囲やその先の対応については大きく変わってきます。
まず、一般的な転職エージェントは新たな転職先を紹介することに主眼を置いています。これは、現在の転職エージェントのビジネスモデルは、企業側がアルムナイ採用(カムバック採用、ジョブリターン制度)を積極化する以前に確立された点にも起因しています。
そもそも、昔は多くの企業が出戻りを希望する人の中途採用を仕組みとして想定しておらず、転職エージェント側もそういった前提のサービス提供を想定していませんでした。
企業側も安易な離職は抑止したい、退職金を複数回支払う必要があるのか?出戻った人材の受け入れ、評価をどう行うのか?などの仕組みが整っておらず、転職エージェントと企業の間で、出戻りを想定したやり取りがほとんどなされていなかったからです。
そのため、転職活動の選択肢の1つとして、過去の勤務先企業への出戻り(リターン)を相談してみることは可能ですが、担当のコンサルタント、アドバイザーから明確な回答、具体的な情報を引き出せる可能性は低くなりがちというのが実情です。
相談した際にどんな回答、アドバイスが多くなりがち?
転職エージェントで出戻り(リターン)を前提とした相談を行った場合、担当コンサルタント、アドバイザーとしては「正直、出戻り(リターン)採用の可否、募集状況は、企業側に個別で確認してみないと今は何とも言えない」というのが本音になってきます。
転職エージェントは基本的に、新たな人材の紹介、斡旋を想定して求人票を作成しているのが現状です。元従業員であるアルムナイの受け入れ可否に関する項目を設けているケースも稀で、企業側に必ずヒアリングしておくべき内容に入っていないことも多いです。
こういった状況のため、転職相談の場で提供できる各論の情報はどうしても少なくなりがちです。新たな転職先の紹介を想定した情報提供、アドバイスは多く行えるものの、個別企業のアルムナイ採用の状況については、一般的なアドバイスに留まりがちです。
もちろん、中にはアルムナイ採用の状況を個別に企業側に確認、ヒアリングしてくれる親身なコンサルタント、アドバイザーもいると思いますが、それはコンサルタント、アドバイザー自身の考えによるケースが多いです。少なくとも、当たり前のサービスとして情報提供を期待するのは厳しいかもしれません。
転職エージェントの実情:紹介手数料と、企業側の心理問題
転職エージェントに相談しても、各論の情報が得にくかったり、その企業のアルムナイ採用の選考へ進めるかどうかの回答が不透明な背景には、転職エージェントのビジネスモデルと、企業側の心理的なハードルの両方が関係しています。
転職エージェントのビジネス構造特有の問題
一般的な転職エージェントのビジネスモデルは、企業側から紹介手数料を受け取ることで成り立っています。具体的には転職者の入社が決定した場合、想定年収の35%前後を紹介手数料として受け取るケースが多いです。
こういったシンプルな紹介手数料の仕組みは、通常の中途採用の場面では合理的に機能していますが、アルムナイ採用(カムバック採用)の場面ではネックになる可能性もあります。
大きな問題の1つが企業側の心理です。企業の採用担当者や経営層の立場から見れば、「自社で以前働いていた人材に対して、新たに数百万円単位の紹介手数料を支払うの?」という疑問が生じやすくなります。
そもそも企業がアルムナイ採用(カムバック採用)に力を入れ始めている理由の1つには、転職エージェント経由の採用によって増え続けている、紹介手数料の費用を少しでも抑制したいという考えもあります。
こういった背景があるため、転職エージェントから自社の元従業員の人材の紹介を受けた場合、通常の紹介手数料は支払えない、または転職エージェントに依頼した範囲ではないと考える企業も多くあります。
コンサルタント、アドバイザーが抱えるジレンマの問題
転職エージェントのコンサルタントやアドバイザーも、紹介手数料を前提とした仕組みの中で仕事をしています。転職希望者の入社先が決定すれば、企業から想定年収の35%前後の紹介手数料が支払われるため、それが当たり前の仕事の仕方になっています。
しかし、もしここにアルムナイ採用(カムバック採用)の求人紹介が加わり、アルムナイ採用(カムバック採用)の求人のみ、紹介手数料が安い料率になってしまう場合は、コンサルタントやアドバイザーにとって悩ましい状況が生まれることになります。
35%前後の紹介手数料が見込める求人と、紹介手数料の料率が低めのアルムナイ求人を並列で扱うことになり、転職希望者へ紹介する求人の優先順位、提案の比重に影響を及ぼす可能性が出てくるからです。
この場合、転職希望者にとってはどちらも将来の選択肢である一方、担当コンサルタント、アドバイザーにとっては収益の差が出ることになってしまうため、対応のバランスに迷いが生じてしまうのです。
もちろん、担当コンサルタント、アドバイザーによっては、転職希望者の納得感やキャリアの方向性を第一に考えてくれる人も多くいます。しかし、仕組み上のインセンティブに差が生まれれば、無意識のバイアスが働きやすくなるのもまた現実です。
転職支援サービスの現場で、こういったジレンマが発生してしまう可能性がある点は、これから転職エージェント業界全体が最適解のバランスを考えていく必要があるかもしれません。
転職エージェントと企業の契約面に関する問題
また、転職エージェントと企業の間で事前に締結する基本契約の問題もあります。一般的な基本契約の中では、採用が成立した際の手数料率や支払い条件等が明記されますが、アルムナイ(元従業員)の採用を考慮した一文が明記されているケースはまだ稀です。
そのため、企業が転職エージェント経由でアルムナイ(自社の元従業員)を採用した場合、通常通り、想定年収の35%前後の紹介手数料が発生することになってしまいます。
前述の通り、企業の採用担当者や経営層の立場から見れば「自社で以前働いていた人材に対して、高額の紹介手数料を支払うの?」という疑問が生じやすくなるため、転職エージェントと企業の間でトラブルの種になる場合もあります。
今後、多くの転職エージェントと企業の間で、アルムナイ(自社の元従業員)の採用を考慮した一文の明記が進展する可能性はあるものの、紹介手数料の料率水準を巡っては個別企業ごとに意見もあり、互いに交渉を積み重ねながら決定しているのが実情です。
出戻りに迷う段階なら、相談する価値は高くなる
一方、新たな転職先を探すか?過去の勤務先企業への出戻り(リターン)を考えるか?判断に迷う段階なら、転職エージェントへ相談する価値も高まってきます。以下に具体的な活用方法例を挙げていきます。
相談することで得られる価値とメリット
転職エージェントに相談する一番の価値は、自分では見えにくい現実を客観的に整理できる点です。まずは自分自身のこれまでの経験やスキルに対して、今どのくらいの需要があるのか?年収やポジションの相場感を知ることで、転職市場における自分の立ち位置を冷静に把握することができます。
これは、過去の勤務先企業への出戻り(リターン)を検討する場合にも有効で、自分自身の市場価値を踏まえた上で、出戻り(リターン)することが今の自分にとって本当にプラスなのか?を見極める材料にもなってきます。
また、もう1つのメリットは「選択肢の比較軸が明確になる」という点です。過去の勤務先企業へ戻ることを検討する場合でも、同じような業界、職種でどんな求人が動いているのか?待遇やポジションの水準はどう違うのか?といった具体的な比較ができるようになります。
これによって、やはり過去の勤務先企業へ戻るのがベストなのか?それとも新たな環境でチャレンジした方がいいのか?といった判断を、内面の感情だけでなく、客観的な事実ベースでも整理できるようになります。
求人へ応募する以外のサポートも、転職エージェントの強み
転職エージェントへ相談する価値は他にもあります。例えば「書類選考の通過率をアップさせるための職務経歴書」や「自己PR内容のブラッシュアップ」です。積んできた経験、スキルをどのようにまとめれば企業に伝わりやすいか?構成内容や言葉選びについても相談したり、アドバイスをもらうことができます。
過去の勤務先企業へ出戻る(リターン)ことを考える場合も、「外の世界で積んできた経験、スキルをどう還元できるか?」「再び貢献できる理由をどのように表現するか?」などが重要ポイントにもなるため、第三者の目で見てもらうことで説得力が増せる可能性があります。
特に、過去の退職理由と今回の転職理由を線でつなぎ、できるだけ前向きに言語化するサポートについては、転職エージェントならではの強み、得意分野と言えるかもしれません。
また、面接内容に関する事前情報を収集したり、想定される質問の回答対策という意味でも、転職エージェントには蓄積した強みがあります。転職エージェントが把握している情報をもとに準備を進めることができ、より自信を持って選考に臨むことができるようになります。
出戻り(リターン)を希望する場合の転職活動の進め方
過去の勤務先企業へ戻る(リターン)ことを希望する場合も、まずは通常の転職活動と同じように「情報収集」から始めるのが基本です。ここでは具体的な情報収集の進め方を挙げていきます。
アルムナイ採用専門の情報サイトを利用してみる
「Alum Park(アルムパーク)」は、過去の勤務先企業への出戻り(リターン)を検討したい方のための専門情報サイトです。簡単なアカウント登録を済ませておけば、再入社、副業、アルバイト・パート募集など、アルムナイ採用に関する情報が発生した時にメールで手軽に受け取ることができます。
企業公式のアルムナイ採用ページの有無を確認する
近年はアルムナイ採用(カムバック採用、ジョブリターン制度)に力を入れる企業が増えているため、専用の募集ページを設ける企業も多くなってきています。まずは過去に勤務していた企業の公式サイトをチェックし、採用ページの中にそうした制度、募集情報の掲載がないかを確認してみてください。
元の上司、同僚の方とつながりがあれば相談してみる
もし、過去に働いていた企業、職場の元上司、元同僚の方とのつながりが残っていれば、アルムナイ採用の募集状況や直近の社内状況を一度聞いてみるのも手段です。近年はSNS(InstagramやLINE等)でゆるくつながっておくケースも多いため、そういった機会に何気なく挨拶や会話をしてみるのも入口になります。
尚、ある程度規模の大きな企業の場合は、人事部がアルムナイ採用の窓口になっているケースが多いものの、中小企業の場合は社長や職場の上司、リーダーに当たる方が出戻り(リターン)希望者の採用有無を決めていることも多くなっています。


